Gran Turismo Sophy(グランツーリスモ・ソフィー)と人工知能の可能性について考えてみる

2022年2月10日、ソニーAI(Sony AI)ソニー・インタラクティブエンターテインメント(SIE)、ポリフォニー・デジタルの3社合同で開発を行ったレーシングAIエージェント「Gran Turismo Sophy(グランツーリスモ・ソフィー)」を発表しました。
Gran Turismo Sophyは、PlayStation向けのゲームグランツーリスモSPORT向けに研究開発されたAIエージェントです。グランツーリスモSPORTは、世界中に約900万人のプレイヤーがおり、eスポーツの世界大会も開催されるゲームです。

Gran Turismo Sophy(グランツーリスモ・ソフィー)が人を進化させる

Gran Turismo Sophyは、人間が人工知能を活用して進化することに貢献する可能性を感じさせるAIエージェントです。その視点で、このプロジェクトを少し掘りさせてゆきたたいと思います。

グランツーリスモSPORTのような対戦プレイヤーが存在するレースゲームを機械学習させる難しさは、単純にもっとも早く走ること学ぶだけではゲームとして成り立たないことです。
常に、他のプレイヤーの動きによって状況が変化するため、予測できることとその瞬間に判断しなければならないことがリアルタイムに変化してゆく必要があるため、選択肢が無限大に存在してしまう部分もあります。
上記に加え、グランツーリスモSPORTでは、ゲームのルールとして、他のプレイヤーの妨げになるようなドライビングを行うとペナルティを受けてしまう特性があります。
つまり、スポーツマンシップにそって、他のプレイヤーに対してアグレッシブになりすぎないように振る舞い、相手の走行ラインを尊重するなど一定の配慮があるレースをすることが求められます。
つまり、AIエージェント(Gran Turismo Sophy)は、反則行為によるペナルティを受けないようにして、人間のプレイヤーに勝つ方法を選択する必要がある訳です。このスポーツマンシップにそった振る舞いが求められている点が興味深いのです。

Gran Turismo Sophyの優れている点

Gran Turismo Sophyの優れている点は、学習の中でペナルティを受けずに運転できる能力を身につけていることです。
人工知能が人間とうまく共生するためには、人間の規範を理解することが求められます。それが理解できるようになれば、人間との接し方を学ぶことが求められている人工知能により近づくに違いありません。
もちろん、ゲームという枠組みの中なので、プログラムや設定上の盲点をついて攻略をしてゆく部分、つまりドライビングに身体的な感覚を持っている人間には想像できない攻略法が生まれてしまうことがあります。
実際のクルマとは違う挙動になることや、人間の常識では恐怖感という感情の影響を受ける部分は人間には不利に働く要素ではあるので、リアルな世界で機能させるには、まだまだ課題が多いかと思います。
それでも、人間の倫理や道徳を理解しているかのように振る舞うことができることは重要な要素なのです。

人工知能の研究と人間の能力解放

「人間とは何か?」人工知能を研究することは、人間のことを理解することにつながると言われている部分ではないでしょうか。

グランツーリスモSPORTのプロeスポーツ選手である宮園拓真氏は、インタビューの中で、『本当にアグレッシブで、これからもっと一緒にレースをしてゆきたいと思った。』と語っています。
また、JeGT認定ドライバーの龍 翔太郎氏は、『AIはプレイヤーの相棒になるのではないか。相棒になった時に人間の感情を揺さぶってくれるようないい関係であって欲しいと思う。』とも語っています。
インタビューの中で、今回のプロジェクトが目指している人工知能は、『人を楽しませるために作られているAIである』と開発者が語っていたのが印象的でしたが、eスポーツ選手からの反応をみると狙い通りの進化を遂げているように感じました。

プレイヤーが、AIから学ぶべきことが多かったと感想を語っているように、レーシングAIエージェントがもっと早く走るために理にかなった走らせ方をすることで、Gran Turismo Sophyがプロゲーマーが思いつかなかったライン取りなどのアイディアを生み出してゆくこともあるため、人間のプレイヤーがそのプレイを参考にする現象も起きているのです。
まさに、人工知能が人間の能力を引き上がることに成功して、人間との協働作業を実現しているのです。
このように、人間が発想のヒントを得るためのパートナーとして、人工知能が生み出して答えが重宝されていくことになるはずです。
株式会社ソニーAIの代表取締役CEO北野宏明氏も『私たちは人々のクリエイティビティとイマジネーションの力を解放するためのAIを作ることを目指しています』とビジョンを示しています。
このような形で、人工知能が進化して、『力の解放』、つまり人がAIを活用して進化することに期待してしまうのです。