2025年のAI変化を一気読み。「推論」と「記憶」が変える2026年の働き方

あっという間に2025年も幕を閉じようとしています。

毎年「今年は変化が激しかった」と言い続けている気がしますが、2025年ほどその言葉が重みを持つ年はなかったのではないでしょうか。

昨年末、私たちは「プロンプトエンジニアリング」や「ChatGPTにどう指示を出すか」に躍起になっていました。しかし、今この画面を見ている皆さんの手元にあるツールは、もはや「チャットボット」ではありません。

「AIが自分で考え、記憶し、行動する」

2025年は、まさに「自律型AIエージェント元年」と呼ぶにふさわしい1年でした。

今回は2025年の最後の投稿として、ビジネス・マーケティングの現場で何が起き、私たちは2026年に向けて何を準備すべきか。総決算します。

2025年AI総決算:「エージェント元年」に日本のマーケティングはどう変わったのか?

「チャットボット」の時代は終わりました。2025年、GPT-5やGemini 3の登場により、AIは自ら考え行動する「エージェント」へと進化。日本企業の導入も7割を超え、現場は「指示待ち」から「自律化」へ激変しています。今年の重要トレンドを総括し、2026年に勝つための戦略を徹底解説します。

生成AIは「言葉遊び」から「実務に活用できるレベル」へ進化

2024年まで、多くの企業にとって生成AIは「魔法のようなおもちゃ」か「優秀な新人アシスタント」でした。しかし、2025年のアップデート——特にGPT-5Gemini 3の登場——は、その認識を根底から覆しました。

Morgan StanleyやMicrosoftのレポートが示す通り、今年の最大のキーワードは「Reasoning(推論)」と「Agentic(エージェント的振る舞い)」です。

AIは単に確率的に次の単語を予測するだけの存在から、「目標を達成するために必要な手順を論理的に考え、複数のツールを使いこなし、タスクを完遂する存在」へと進化しました。これが、ビジネス現場、特にマーケティングやEC運用に革命をもたらしています。

では、具体的に何が起きたのか。4つの視点で振り返ります。

1. グローバルトレンド:「マルチモーダル&エージェント」の爆発的進化

まず、技術的なマクロトレンドを押さえておきましょう。2025年を象徴するのは以下の2点です。

「推論」能力の飛躍(GPT-5 / Gemini 3)

これまでのAIは「それっぽい文章」を作るのが得意でしたが、論理的な整合性を保つのは苦手でした。しかし、2025年のモデルは「推論能力」が劇的に向上しました。

例えば、「来期の売上目標を達成するためのマーケティングプランを考えて」と投げかけた際、以前なら一般的なフレームワークを返すだけでした。しかし最新モデルは、市場データを読み込み、競合分析を行い、予算配分まで計算した上で、「なぜその戦略なのか」というロジックまで提示できるようになりました。

「聞く・見る・話す」が当たり前に(マルチモーダル)

テキスト、画像、音声、動画。これらを別々のAIで処理する時代は終わりました。

カメラに映った店舗の棚を見て「在庫が減っている商品の発注リストを作成し、発注メールの下書きを作る」といった動作が、一つのモデルでシームレスに行えるようになりました。これにより、現場業務(フィールドセールスや倉庫管理)でのAI活用が一気に現実的になりました。

2. 日本市場の現在地:「慎重導入」から「本格運用」へ

シリコンバレーで何が起きようと、日本の現場で使えなければ意味がありません。2025年、日本企業のAI活用はどう変化したのでしょうか?

「7割」が使う時代への突入

GMOリサーチなどの調査によると、2025年時点で日本企業の約7割が何らかの形で生成AIを業務利用しているというデータが出ています。

2024年までは「情報漏洩が怖い」「ハルシネーション(嘘)が心配」という理由で導入を見送っていた企業も、ローカル環境でのLLM構築や、RAG(検索拡張生成)の精度向上により、重い腰を上げました

フェーズの変化:POC(実証実験)疲れからの脱却

「とりあえずAIで何かやってみて」という丸投げのPOCは激減しました。代わりに定着したのは、「既存の業務フローのどこをAIに置き換えるか」という現実的な実装です。

特にマーケティング・EC分野では、以下の変化が顕著でした。

  • Before (2024): 「ブログ記事のタイトル案を10個出してもらう」「メルマガの文面を考えてもらう」
  • After (2025): 「SEOキーワード選定から構成案作成、執筆、CMSへの入稿下書きまでを半自動化するワークフローの構築」

日本企業特有の「品質へのこだわり」は、AIを排除する方向ではなく、「AIが出したアウトプットを人間がどう監査(チェック)するか」というHuman-in-the-loop(人間がループに入り込む)体制の確立へと向かいました。これが2025年の日本における最大の進歩と言えるでしょう。

3. マーケティング・EC現場のリアル:「RPA+生成AI」の衝撃

「AIエージェント」という言葉が、現場でどのように具現化しているか。McKinseyのレポートなどでも触れられていますが、最もインパクトがあったのは「RPA(定型業務自動化)と生成AIの融合」です。

これまでのRPAは「決まったこと」しかできませんでした。ボタンの位置が1ピクセルずれただけでエラーを起こす、融通の利かない存在です。しかし、ここに「目(画像認識)」と「脳(推論)」を持つAIが組み合わさることで、RPAは最強の武器に生まれ変わりました。

具体的なユースケース:EC店舗運営

私が取材したあるアパレルEC企業の事例を紹介しましょう。

【従来の業務】

  • 担当者が毎朝、競合サイトを目視でチェック。
  • 価格やセール情報をExcelにまとめる。
  • 自社の価格調整案を上司にメール。

【2025年のAIエージェント活用】

  • AIエージェントが自律的に競合サイトを巡回(構造変化があってもAIが「価格」の場所を推論して読み取る)。
  • 自社の在庫状況と利益率、過去の販売データを参照し、「最適な価格」を算出
  • 「A商品は競合が値下げしたため、5%オフに設定すべきです。利益率は確保できます」という提案付きレポートをSlackに通知。
  • 担当者が「承認」ボタンを押すと、CMSにログインして価格を変更まで完了。

ここでは、人間は「調査・入力」という作業から解放され、「承認・戦略決定」という意思決定のみに集中しています。

「AIエージェントは人の仕事を奪うか?」という問いへの答えは、「作業(Task)は奪うが、責任(Job)は残る」という形で決着しつつあります。

4. 技術トレンド深掘り:文脈の壁を超える「長期記憶」

少しマニアックですが、今後のマーケティングを考える上で避けて通れない技術トレンドがあります。それが「長期記憶(Long-term Memory)」です。

「昨日の話を覚えていない」問題の解決

これまでのAI(LLM)には「コンテキストウィンドウ」という限界がありました。会話が長くなると、最初の頃の話を忘れてしまうのです。これは、顧客一人ひとりに寄り添うマーケティングにおいて致命的でした。

「先月買ったあの商品、どうでした?」と聞けないAIに、最高の接客はできません。

Titans、MIRASなどの新技術

2025年末、Googleや研究機関からTitansMIRASといった新しいアーキテクチャやフレームワークが注目されています。専門的な説明は省きますが、これらは「AIが人と同じように、重要な情報を長期的に記憶し、必要な時に瞬時に思い出せる仕組み」です。

これがマーケティングをどう変えるか?

これが実用化されると、「真のOne to Oneマーケティング」が可能になります。

AI: 「田中様、昨年購入されたスキーウェア、そろそろ撥水加工が落ちてくる頃かと思います。メンテナンス用品はいかがですか? それとも、今年は新しいモデルに関心がありますか?」

RAG(検索)だけでは実現できなかった、「文脈(コンテキスト)を踏まえた提案」が、2026年にはECサイトのチャットボットや、CRM(顧客関係管理)ツールの標準機能になっていくでしょう。

5. 2026年に向けて:ビジネスパーソンが今すぐやるべき3つのこと

さて、これらを踏まえて、私たちは2026年をどう迎えるべきでしょうか。

単に「AIツールを導入する」だけでは不十分です。組織とマインドセットのアップデートが必要です。

「AIマネジメント力」を磨く

これからのリーダーに必要なのは、部下を管理する能力に加え、「AIエージェントを指揮する能力」です。

AIにどのような目標を与え、どのような権限(メールを送っていいのか、ドラフトまでか)を持たせ、どう評価するか。「プロンプトエンジニアリング」は「AIオーケストレーション(指揮)」へと進化します。 自身の業務を細分化し、どこをエージェントに任せるかという「業務設計図」を描き直してください。

データ基盤の整備(AIの「食料」を良くする)

どれだけ優秀なAI(脳)があっても、参照するデータ(知識)が古かったり間違っていたりすれば、出てくるアウトプットはゴミです。

社内のドキュメント、顧客データ、商品マスタ。これらがAIにとって読みやすい形(構造化データなど)で整理されているか。「AIがアクセスできるデータベース」の整備こそが、2026年の競争優位性になります。

「人間らしさ」への回帰

逆説的ですが、AIが実務をこなせるようになればなるほど、「最後に誰が責任を取るか」「誰が熱意を持って語るか」という人間性が価値を持ちます。

AIが書いた完璧なSEO記事よりも、あなたが汗をかいて得た一次情報や、情熱のこもった不格好な文章が刺さる場面も増えるでしょう。

AIに「平均点以上の合格点」を出させ、人間は「熱量と責任」を付加する。この分担を意識してください。

まとめ:AIは私たちの「同僚」になった

2025年は、AIが「ツール」から「同僚(エージェント)」へと進化した年でした。

変化のスピードにめまいを覚えることもあるでしょう。しかし、恐れる必要はありません。

かつて電卓が登場したとき、計算手は不要になりましたが、数学や会計の仕事はなくなりませんでした。むしろ、より高度な計算が可能になり、ビジネスは加速しました。

AIエージェントも同じです。面倒な事務作業やリサーチから私たちを解放し、「人間にしかできない創造的で、意思決定を伴う仕事」に時間を割くチャンスをくれているのです。

2026年、あなたの隣には、さらに賢くなったAIエージェントが座っているはずです。

AIエージェントとどんなチームを組み、どんな新しいビジネスを創り出すか。

想像するだけでワクワクしませんか?

激動の2025年、お疲れ様でした。

AIという頼もしい相棒と共に、2026年も素晴らしい年にしていきましょう。