AIを活用して経営者の隣で問題を解く。中小企業の救世主「FDE」という働き方

AIという魔法の道具で目の前の悩みを数分で解決する。今、中小企業の現場で起きているのは、エンジニアが隣に座り、課題を解決してゆく「現場密着型」のIT活用術です。本記事では、人手不足や技術伝承に悩む経営者のための、最も泥臭くて最も新しいFDE(Forward Deployed Engineer)について、まとめてみました。

DX化という言葉に、疲れ果てていませんか?

「DX(デジタルトランスフォーメーション)を進めましょう」「これからはAIの時代です」

テレビや新聞、銀行の担当者からそんな言葉を投げかけられるたび、どこか他人事のように感じたり、あるいは「また金がかかる話か」と身構えてしまったりしていませんか?

地方の現場を支える経営者の皆様が抱える本音は、もっと切実なはずです。

  • 何千万円もかけて導入したシステムが、結局使いにくくて誰も使っていない。
  • 「ITに詳しい」というコンサルタントを呼んだが、現場の苦労も知らないまま、分厚い報告書だけ置いていかれた。
  • 若手は入ってこない。ベテランの職人は引退間近。このままでは、長年培ってきた「技」が途絶えてしまう。

そんな「どうすればいいか分からない」という閉塞感を打ち破る、全く新しい存在が注目されています。それが「FDE(フォーワード・デプロイド・エンジニア)」です。

日本語に訳せば、「現場駐在型の解決エンジニア」

彼らはオフィスでキーボードを叩く人たちではありません。あなたの会社の、油の匂いがする作業場や、書類が山積みになった事務机の隣に座り、AIという「最新の道具箱」を駆使して、その日のうちに困りごとを解決してしまう。そんな「現代の助っ人」なのです。

FDEとは「現場監督」と「発明家」を一人二役でこなす人

「エンジニア」と聞くと、難しい英語を話し、パソコンの画面ばかり見ている人を想像するかもしれません。しかし、FDEは少し違います。彼らの役割を身近な仕事に例えるなら、「現場監督」と「発明家」を掛け合わせたような存在です。

現場の言葉を「翻訳」する

FDEは、最初から「このシステムを買いなさい」とは言いません。まずは作業着に着替え、皆さんの仕事の様子をじっと観察します。

「この作業、なんでこんなに時間がかかるんですか?」

「ああ、この紙の伝票を一度Excelに打ち直して、それをまた別の台帳に書き写しているからですよ。面倒でしょ?」

そんな現場の「生の声」を拾い上げ、それをどうすればITで楽にできるか、その場で考えます。

AIという「優秀な助手」を使いこなす

FDEが普通のエンジニアと違うのは、「AI(人工知能)」という優秀な助手を使いこなす点です。

今のAIは、人間が数ヶ月かけて作っていたプログラムを、数分、あるいは数秒で形にすることができます。FDEは、あなたの隣で話を聞きながら、「よし、じゃあこの伝票をスマホで撮るだけで、自動的に台帳が埋まる仕組みを作ろう」とAIに指示を出します。

会議室で何ヶ月も検討するのではなく、その日の午後には「試作品」を見せてくれる。この圧倒的なスピード感こそがFDEの正体です。

【事例】見積もり作成に3日かかっていた町工場が、1分で回答できるようになった話

ここで、ある地方の町工場で実際に起きた物語をご紹介しましょう。

社長の頭の中にしかない「秘伝のタレ」

従業員30名の精密加工メーカー、A社の悩みは「見積もり」でした。

取引先から届く複雑な図面を見て、材料費、加工の手間、特殊な工具の摩耗具合、さらには送料までを計算して金額を出す。この作業ができるのは、創業40年のベテラン社長ただ一人。

「図面を見れば、どこが難しいか肌で分かる。でも、これを他人に教えるのは無理だ。センスなんだよ」と社長は言います。

社長が出張に行けば見積もりは止まり、回答が遅れたせいで他社に仕事を取られる。そんな悪循環が続いていました。

FDEがやった「意外なこと」

そこに一人のFDEがやってきました。彼はパソコンを開く前に、社長の隣で3日間、一緒にお茶を飲み、社長が見積もりを作る様子を観察しました。

「社長、今、この『角の丸み』を見て、少し顔をしかめましたよね? ここ、加工が難しいんですか?」

「おお、よく気づいたな。ここは刃物が入りにくいから、時間がかかるんだよ」

FDEは、社長が無意識にやっている「職人の判断基準」を一つずつ言葉にし、AIに教え込んでいきました。

「社長の分身」がスマホの中に現れた

1週間後、FDEは社長にスマホを差し出しました。

「社長、試しに図面を撮影してみてください」

半信半疑で社長がパシャリと撮ると、画面上のAIが即座に答えました。

『この形状は加工時間が20%増えます。過去のB社向け案件を参考にすると、単価は4,200円が妥当です』

社長は絶句しました。「……俺が考えてること、そのままだ」

今、A社では入社2年目の事務の女性が、社長の代わりに1分で見積もりを送っています。社長は「見積もり地獄」から解放され、若手の育成や新しい営業に回れるようになりました。

ITを入れたのではありません。社長の「脳みそ」を、みんなが使える「道具」に変えたのです。

なぜ「身内」ではなく「外の人」が来ると、会社は劇的に変わるのか?

「IT化なんて、詳しい若手にやらせればいい」

そう思われるかもしれません。しかし、実は「外の人」であるFDEが入るからこそ、うまくいく理由があります。

「しがらみ」を突破する「風通しの良さ」

社内の人間が「やり方を変えましょう」と言うと、どうしても角が立ちます。「俺たちのやり方を否定するのか」という反発や、部署間の力関係が邪魔をするのです。

FDEは、いわば「よそ者」です。しかし、専門家として敬意を持って現場に入ります。不思議なもので、身内に言われるとカチンとくる指摘も、外のプロから「もっと楽にする方法がありますよ」と頼まれると、ベテランの方も「それなら教えてやるか」と協力的な姿勢になりやすいのです。

「これまでの苦労」を肯定し、未来へつなげる

FDEは、今の仕事を否定しません。むしろ、皆さんが長年積み上げてきた「こだわり」を、AIという新しい箱に詰め込んで、次世代に引き継ぐ手伝いをします。

「あなたの技術は凄い。だからこそ、機械ができる単純作業はAIに任せて、あなたにしかできない仕事に集中してほしい」

その思いが伝わるから、現場の温度感が変わるのです。

失敗しないための「はじめの一歩」——FDEと出会い、共に歩む方法

では、どうすればFDEという助っ人を呼べるのでしょうか? 高額な費用を請求されたりしないでしょうか?

「システム」ではなく「人」を選ぶ

これまでは「どのソフトを買うか」が重要でした。しかしこれからは「誰と一緒に歩むか」が重要です。

カタログを持ってきて「これを買えば解決します」と言う業者ではなく、あなたの会社の現場を見せてほしいと言い、一緒に汗をかいてくれるエンジニアを探してください。最近では、地方創生を掲げるIT企業や、フリーランスのエンジニアがこうした活動を広げています。

「小さく産んで、AIで育てる」

最初から1,000万円もかける必要はありません。

「毎日書いているこの日報、書くのが面倒なんだけど」

「FAXで届く注文書を、パソコンに打ち直すのが大変だ」

そんな、たった一つの「小さなお困りごと」から始めてください。AIとFDEなら、それを数日、数週間で解決できます。小さな成功体験が社内に広がれば、あんなにITを嫌がっていた社員たちが、自分たちから「次はここを直してほしい」と言い出すようになります。

FDEは「卒業」していく存在

FDEは、ずっと居座るわけではありません。最終的な目標は、あなたの会社の中に「AIを使いこなせる文化」を残して卒業することです。

契約が終わる頃には、あなたの会社の若手社員が、FDEのやり方を真似して、自分たちで現場を改善できるようになっているはずです。これは、単なる「ソフトの購入」では絶対に手に入らない、「会社の成長」という財産です。

まとめ:ITは「人」を減らすためではなく、「人」を輝かせるためにある

「IT化」という言葉を聞いて、冷たいイメージを持つ必要はありません。

AIという最新の知恵と、FDEという情熱を持ったパートナー。この二つが揃えば、地方の中小企業はもっと強く、もっと面白くなれます。

人手不足を嘆くのではなく、今いるメンバーが「もっと楽に、もっと誇りを持って」働ける環境を作る。その鍵は、あなたの隣に座る一人のエンジニアが握っているかもしれません。

重い腰を上げる必要はありません。まずは、あなたの現場にある「これ、なんとかならないかな」という小さなお悩みを、FDEという助っ人に話してみることから始めてみませんか?

その一歩が、10年後のあなたの会社を支える大きな分岐点になるはずです。